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vol.1 クラフト作家 上原かなえさんインタビュー

ペーパークラフト作家として、「北欧のかわいい切り絵」をはじめとした本の執筆やワークショップをされている上原かなえさん。誰でも簡単に扱えて身近な材料である「紙」は、手づくりを始めるのにぴったりな素材だといいます。「ものづくりの楽しさを伝えたい」という想いが生まれたきっかけ、デンマーク留学で魅了されたペーパークラフト文化について、お話を聞きました。 

 


 

幼少期から日常的だった「手を動かしてものをつくる」こと

幼い頃によく遊んでいたおもちゃは、布でできたさやえんどう。ファスナーがついていて、中にはちゃんとお豆が入っています。ファスナーをあけたり、しめたり、豆を出したり、しまったり。母お手製のおもちゃが「手づくり」に触れた最初の記憶です。

さやえんどうは今はなく、その代わりにと母が当時作った人形たちを思い出しながら、あらたに娘(孫)のために作ってくれた、お手製のままごとセット。  

さやえんどうは今はなく、その代わりにと母が当時作った人形たちを思い出しながら、あらたに娘(孫)のために作ってくれた、お手製のままごとセット。

 

母はアメリカンキルトの先生、父は絵を描くのが趣味、祖母は85歳まで洋裁店を営んでいて、家族みんなが手で何かをつくりだすのが日常的な暮らし。床にはぎれが落ちていたり、母が余った綿をくれたり、それも遊び道具のひとつでした。

上原かなえ 幼少時代

夕食後、家族みんながテーブルに集まってそれぞれが手を動かしはじめる。私にとって「ものづくり」の原風景です。そんな環境だったので、自分でも何かをつくりたくなるのは自然の流れ。幼稚園の頃に見よう見まねで小物をつくったことを覚えています。

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セキユリヲさんとの出会い「手仕事文化を伝える」という使命


「手芸女子」まっしぐらだった中高時代を経て、桑沢デザイン研究所でデザイン全般を学び、卒業後は小さなブランド会社に入社しました。そして、会社の仕事を通じてセキユリヲさんと知り合ったことで、私のものづくり人生は大きく変わります。

 

セキさんは身近にある草花をモチーフにしたテキスタイルのデザイナーです。図案を布にし、それを雑貨にして自己発信していくブランド「サルビア」を立ち上げたばかりの頃でした。彼女のデザインセンス、それを形にしていくプロセスにとても惹かれて、サルビアの雑貨づくりに参加させてもらったのが、現在につづく活動のきっかけです。

下町の袋物職人さんと一緒に何度も試作を繰り返して作った、お手玉のフォルムをモチーフにしたバッグ

下町の袋物職人さんと一緒に何度も試作を繰り返して作った、お手玉のフォルムをモチーフにしたバッグ

 

サルビアの活動の中でもっとも心を動かされたのが、「消えてなくなってしまいそうな、でもとても意義のあるものづくりをしている人たち」に焦点をあて、技術や作品そのものを、後世に伝えていきたいというコンセプト。それらを伝えていくにはどうすればいいのか、セキさんはそういうことをとても深く考えている人でした。彼女と一緒に考え悩んだことが、今でも私の中のひとつの軸になっています。

雑誌『Linkaran』で『サルビア手習い帖』という作り手の取材する連載を担当。草木染めや刺し子などの魅力に出会う。

雑誌『Linkaran』で『サルビア手習い帖』という作り手の取材する連載を担当。草木染めや刺し子などの魅力に出会う。

職人さんを見ていると、動かしているのは「手」。幼い頃のものづくりの原風景を思い出しました。パソコンや便利な道具が増え、それらに頼ることが多くなった時代の中で、手を使うものづくりを見直したい。私自身も忘れかけていた「ものづくりの楽しさ、大切さを伝えなくちゃ!」、そんな使命感があふれてきました。やはり日々の暮らしにおいて大切なのは「手仕事」なのです。

 


ペーパークラフト、デンマークとの出会い


そんな時、商品のつくり方を紹介する本を出版してみませんかという話がいくつか舞い込んできたのです。「これは“手仕事”を伝えるためのよいきっかけになるかもしれない」と感じました。雑貨ができるまでの工程を上手に伝えれば、たくさんの人が手を動かして何かをつくりだすという楽しさに気づいてくれるかもしれない。同時に職人さんの素晴らしさも伝わり、ものへの愛おしさも増すかもしれない……。

最初はフェルトや刺し子など、手芸の本でした。簡単につくれる方法を探るために、サンプル作品を紙で組み立てて制作していました。実は一番簡単にものづくりができる身近な材料が紙なんです。そのサンプルが「かわいい」と周囲に評判になりました。

「紙でつくるクラフトなら、道具も材料も少ないし手に入りやすい。簡単につくれるから、興味をもってくれる人も多いのではないか」

ペーパークラフトをはじめたのは、そんな理由からでした。

新しい形はいつも『手』で考える。作品を作る時、机の上はいつも紙の試作でいっぱいになっていた。

新しい形はいつも『手』で考える。作品を作る時、机の上はいつも紙の試作でいっぱいになっていた。

 

そして、改めて身近にある紙に注目してみると、小さい頃から親しんできた折り紙やメッセージカードなど、ペーパークラフトがたくさん。さらには好んで集めたモビールがデンマークの老舗・フレンステッド社の商品だったり、クリスマス飾りの天使の形をした切り紙がデンマークのアンティークだったり、アンデルセンの切り紙絵本だったり、身の回りにある紙でできているものは、不思議と「made in Denmark」のものばかりでした。

 

いろいろと調べてみると、クラフトに用いられているモチーフやその用途が、キリスト教からくる伝統行事やデンマークならではの習慣にルーツがあるということがわかってきました。昔から脈々とつづく暮らしのあちこちにペーパークラフトが存在する。デンマークの伝統や暮らし、そこに根づいたペーパークラフト文化をもっともっと知りたくなりました。

日本の紋切り型のような紙を折り畳んで切り抜き広げたデコレーションもデンマークのペーパークラフトの伝統的な手法

日本の紋切り型のような紙を折り畳んで切り抜き広げたデコレーションもデンマークのペーパークラフトの伝統的な手法

 

そんなタイミングでセキさんが、テキスタイルを学ぶためにスウェーデンにある手工芸学校・カペラゴーデンに留学したのです。大人になってからも好きなことを極めるために本場で学ぶことができるんだと驚きました。

セキさんは帰国たっぷりと吸収してきたいろんなことをアウトプットしてくれ、本当に羨ましいな...と思っていたら「上ちゃんも行ってきたらいいよ」とさらっと言われて。 体験者に背中を押されたことがきっかけで、「ペーパークラフトと暮らし」を学ぶためにデンマーク留学を決意したのです。

<後編に続く>

  文 / 塚本佳子   2017/4/1  


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Profile/   上原かなえ

クラフト作家。「サルビア」の雑貨デザインスタッフを経て「サルビア工房」として独立。クラフト作家として、紙や布をはじめ、さまざまな素材に耳を傾けながら暮らしを彩る手作りのアイデアを提案する。2013年夏より、デンマークスカルス手芸学校留学。帰国後、北欧で出会ったペーパークラフトをまとめた『北欧のかわいい切り紙』(河出書房新書)を出版。